在宅医療に関わる薬剤師のやりがいや多職種連携について。

近年の診療報酬改定では、地域包括ケアシステムを推進する内容が多く含まれています。これは国が「医療の場は病院だけではない」と、発信しているのです。新型コロナウイルス流行により、在宅で療養できる体制の必要性がより明確になりました。薬剤師も今後在宅医療に深く関わっていくことになるでしょう。この記事では、薬剤師と在宅医療について幅広くご紹介していきます。

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この記事では、下記の読者に情報発信できたら幸いです。

・在宅医療に関わる薬剤師のやりがいやメリットなどを知りたい。
・会社の方針で在宅医療をやらなければならなくなり、何から、始めたらいいのかわからない。
・仕事をする上で、必要なスキルや心構えを知りたい。

目次 在宅医療に関わる薬剤師のやりがいや多職種連携について。

1.在宅医療とは何か。
2.在宅医療に関わる薬剤師とは
3.在宅医療を担う薬剤師の役割とは
4.資格は必要なのか。(在宅療養支援認定薬剤師)
5.必要な心得やスキルは何か
6.在宅の業務の流れとは。
7.在宅医療へ参加できる薬剤師のやりがいとは。
8.メリットやデメリット
9.まとめ

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1.在宅医療とは何か。

在宅医療とは「居宅で医療を受ける」ということです。この居宅というのは家だけでなく、生活の場となっている老人ホーム等の施設も含まれます。すなわち、病院以外で行われる医療のことを在宅医療と言ってもよいでしょう。
なぜ国は在宅医療を推進しているのでしょうか。

医療資源が限られている。
少子高齢化を迎え、療養を必要とする患者さん全てが入院すると、病床・マンパワー共に足りません。自宅で療養できる体制を整えることで、入院が本当に必要な人に提供できます。

通院が困難な患者さんが今後増加する。
今後、高齢者の一人暮らし、高齢者夫婦のみの世帯が増加する見込みです。すなわち定期的な通院が必要になりやすい人達の、通院を補助してくれる人がいないのです。通院が必要でも、病院まで行けないという人がより問題になっていくでしょう。

最期を住み慣れた家で迎えたい人が多い。
厚生労働省の調査によると、「自宅で最後まで療養したい」「自宅で療養して、必要になれば医療機関等を利用したい」と答える人が、回答者の約60%を占めています。在宅医療は国の医療費削減の施策だけでなく、国民のニーズなのです。

2.在宅医療に関わる薬剤師とは

在宅医療に関わる薬剤師は、在宅医療を受ける患者さんに対し、最適かつ効率的で安心安全な薬物療法を提供するとされています。要するに、患者宅に出向いて薬剤師業務をするということです。具体的な業務としては、調剤、医薬品や衛生材料の供給、服薬指導、薬歴管理、服薬状況管理、副作用等モニタリング、多職種や家族からの相談応需等があります。業務内容を書き出してみると、病院や薬局で行う通常業務に変わりないと感じるのではないでしょうか

3.在宅医療を担う薬剤師の役割とは

在宅医療を担う薬剤師には様々な役割があります。筆者は薬に関するニーズがあれば積極的に薬剤師が関与すべきと考えています。では、在宅医療を受ける患者さん、そして国が薬剤師に求めるニーズとは一体何なのか、考えていきます。

患者宅への医薬品・衛生材料の供給
先述したように、在宅医療は通院困難な患者さんが居宅で療養を受けられる仕組みです。このような患者さんは、もちろん薬局に薬を取りに行くことも困難です。そこで薬剤師が居宅に調剤した医薬品を持っていきます。そして時には無菌調製した点滴、麻薬等が必要になることもあります。更に、意外に思うかもしれませんが、在宅に取り組んでいる薬局の多くは衛生材料も供給しています。これは、診療所や訪問看護ステーションの負担を軽減する意味合いが強いです。日常的に医薬品・衛生材料の供給を行っている薬局だからこそ出来る役割です。

残薬・服薬状況管理
在宅医療を受ける多くは高齢者です。高齢者の服薬状況管理でよく問題となるのがポリファーマシー(多剤併用)、飲み忘れ、残薬です。高齢になるほど併用薬が増え、管理が煩雑になる傾向にあります。加えて認知機能も低下していくので、飲み忘れや残薬が発生しやすい状況です。日本で飲み忘れ等により発生する残薬の薬剤費は年間約500億円と言われています。更に、薬剤師が在宅医療に介入することで改善される残薬の薬剤費は年間約400億円とされています。薬剤師が在宅患者の服薬状況管理を行うことは、患者の治療効果を高めるだけでなく、医療費削減にも貢献できるのです。

副作用モニタリング
副作用モニタリングも重要な役割の一つです。薬剤師なら当たり前の業務に感じますが、高齢者が多い在宅医療に置いては、重要度が変わってきます。高齢者はご存じの通り、肝臓・腎臓等の生理機能が低下しています。更にポリファーマシーにより、相互作用が起きやすく思わぬ副作用が発現しやすい状態です。定期的に患者宅に訪問し、多職種と患者さんを見守る体制があるからこそ、気付ける事も多いと思います。

多職種との連携
在宅医療を受ける患者さんには、必ず多くの他職種が関与しています。医師、訪問看護師、理学療法士、ヘルパー、ケアマネージャー等様々な職種と連携する必要があります。例えば訪問看護師やヘルパーが気付いた患者の変化を処方内容と照らし合わせ、副作用が疑われるようであれば医師へ処方提案を行う等です。他にも薬の管理を今まで訪問看護師が担っていたところを、薬剤師が引き受けることにより、よりお互いの専門性を発揮した支援ができます。

患者さんや家族への服薬指導・相談応需
在宅医療に関わらず必要な薬剤師の基本的業務です。薬剤師が在宅医療に参加することで、薬に関する理解が深まりアドヒアランス向上に繋がります。長く飲んでいる薬でも、なぜ飲む必要があるのか説明できない方は意外に多いです。すぐ近くにスタッフがいる病院ではないからこそ、患者さんや家族に服薬意義を理解してもらうことで、飲み間違いや飲み忘れが起こった時に誤った判断が起きないようにする必要があります。

4.資格は必要なのか。(在宅療養支援認定薬剤師)

在宅薬剤師になるには特別な資格は必要ありません。在宅患者訪問薬剤管理指導料、居宅療養管理指導料等を算定するにあたり、届け出や要件はありますが資格は不要です
しかし2014年から日本在宅薬学会が在宅療養支援認定薬剤師を制定しました。在宅療養を必要とする患者さんに薬剤師の専門性を生かしたより良質な医療・介護を提供し、社会要請に応えるために、多職種と情報共有を密にしながら、在宅支援チームの一員として、国民の保健・医療・福祉に貢献できる認定薬剤師の育成を掲げています。在宅療養支援認定薬剤師の新規認定の要件としては以下のものがあります。
・薬剤師資格を有し、3年以上の薬剤師実務経験があること。
・いずれかの資格を取得していること。
 薬剤師認定制度認証機構により認証された生涯研修認定制度による認定薬剤師
  日本病院薬剤師会生涯研修認定薬剤師
  日本医療薬学会認定薬剤師
・所定の研修講座受講により40単位以上の研修単位を取得していること。
・日本在宅薬学会主催の学術大会への参加。
・バイタルサイン講習会受講を修了していること。
・5事例の事例報告書の提出。
・認定試験に合格すること。
基本的な実務経験や生涯研修認定薬剤師の資格を取得した上で、更なる研修や症例報告、試験が必要です。その為、まだ薬剤師歴が浅いという方には少しハードルが高いかもしれません。しかし、現在既に在宅療養に関わっている薬剤師なら取得のチャンスは大いにあります。2022年1月現在、151名の在宅療養支援認定薬剤師が誕生しています。これから在宅医療のニーズが増える中で、在宅医療に特化した資格を持ったり、学会に参加することは大変有意義であると考えます。是非一度、ご自身でも在宅療養支援認定薬剤師について調べてみてはいかがでしょうか。

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5.必要な心得やスキルは何か

在宅医療薬剤師に必要な心得やスキルはどのようなものがあるでしょうか。

バイタルサイン等、臨床に関する基礎知識
多職種で働くには、共通認識として臨床に関する基礎知識が必要です。例えば脳梗塞の既往があり、降圧薬を服用している高齢の患者さんがいるとします。多職種が閲覧できる毎日の血圧や脈拍が書かれた共有ノートがあります。この患者さんがふらつきを訴えている時、薬剤師としてこの降圧薬の量が妥当なのか、医師に提案が必要なのか判断しなければいけません。実際は問題に当たった時に逐一調べるようになると思いますが、必要最低限バイタルサインについては学ぶ事を日本在宅薬学会も推奨しています。

コミュニケーション能力
在宅薬剤師は多職種と連携する必要があり、積極的に情報を共有していかなければいけません。カンファレンスが開催されることもあるでしょう。積極的にコミュニケーションをとることで、円滑な業務、薬剤師として更なる職能発揮、信頼関係の構築につながります。

提案力
患者さんや家族、多職種から相談が寄せられた時に、提案する力が必要です。ただ調剤した薬を届けるだけでは、いつまでも「薬を宅配する人」に過ぎません。意外と服薬ゼリーの存在や、薬を粉砕できることを知らない方も多いです。難しく考えずどんな小さいことでも良いので、困っている事をくみ取り、薬剤師として解決できる案を出すことで「この薬剤師に頼んでよかった」と思ってもらえます。

無菌調整
こちらは設備が必要ですが、スキルがあるに越したことはありません。今後自宅での高カロリー輸液や持続点滴が必要なケースが増えてくるでしょう。いざやらなければいけない時、慌てないように前もって動画や手順書等を確認しておきましょう。

車の運転
車の運転はできた方が良いでしょう。衛生材料や輸液を運ぶのに徒歩や自転車では限りがあります。今後訪問する患者宅が増えれば、ルートを効率的に回るためにも車が便利です。また、地方であれば応需するエリアも広くなりますので、車の運転は必須となるでしょう。

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6.在宅の業務の流れとは。

在宅医療を開始する流れ、日々の業務についてご説明します。
在宅医療に薬剤師が参加するには、4つのきっかけに分類されています。1医師の指示、2薬剤師からの提案、3介護支援相談員からの提案、4多職種からの提案です。2-4に関しても最終的には医師の指示が必要です。そして全ての場合において、患者さんの同意があって初めて成立します。
日々の業務としては、よほど在宅に特化した薬局でなければ、門前の病院やクリニックの診察時間はそちらの処方箋応需を行うことが多いです。そして落ち着いた時間に在宅の業務を行います。調剤、持っていく衛生材料の準備、多職種からの連絡事項の確認を行います。そして患者宅に行き、薬や衛生材料の受け渡し、必要に応じて服薬カレンダー等にセット、服薬指導、状況確認を行います。そして薬局に戻り記録を作成し、医師や多職種に報告を行います。
それに加えて、月に何度か多職種が集まるカンファレンスに参加したり、相談応需を行ったり、時には多職種への薬に関する教育も行います。

7.在宅医療へ参加できる薬剤師のやりがいとは。

在宅医療へ参加できる薬剤師のやりがいは、とても大きいです。では、どのような時にやりがいを感じるのでしょうか。

患者、家族に感謝された時
在宅医療では、深く長い付き合いとなるため患者さんとの距離が近くなります。更に終末期の患者さんでは、人生の最期を一緒に過ごすという特別な体験をします。薬局で2、3ヶ月に1回投薬するのとは全く違います。薬剤師としてできることを提供することで、患者さんや家族に感謝されることは多く、やりがいを感じます。

多職種と協力して働いている時
薬局で働く薬剤師は、薬剤師や医療事務以外と働くことは少ないです。在宅医療は様々な職種と協力して働く必要があるので、知見が大きく広がります。更に自分が持つ知識を提供して薬剤師の職能を発揮できると、とてもやりがいを感じます。

自分にしかできない仕事だと感じた時
患者さんや多職種と信頼関係ができてくると、自分を指名してくれる事が増えてきます。「薬剤師さん」ではなく、「◯◯さん」にお願いしたいと言われると、嬉しくなります。

8.メリット

在宅医療薬剤師のメリットとは何があるでしょうか。
患者さんと深く関われる
病院薬剤師は期間限定の付き合いになりがち、薬局薬剤師は疾患等の情報がなく立ち入った話が難しい、と実は薬剤師として1人の患者さんに深く関わる機会というのはそれほど多くありません。しかし、在宅医療薬剤師は長期間の付き合いになり、病状や生活状況までも把握でき、とても深い関わりになります。この関係性だからこそ、薬剤師の職能を発揮できるシーンもたくさんあり、モチベーションアップにも繋がります。

人間関係が広がる
薬局内だけで完結する業務と比べると、圧倒的にたくさんの人と関わる機会が増えます。薬局は良くも悪くも閉鎖的な空間になりがちです。もっとたくさんの人と仕事がしたい、という方には在宅医療薬剤師はぴったりな仕事です。

診療報酬で加算がある
収益という面でも診療報酬を得られるようにする事は大切ですが、より大切なのは国の指針を理解することです。対物から対人へ、門前から地域へ、と薬剤師のあり方を国は診療報酬改定をもって示しています。国が示す方針に上手く乗っていかなければ、淘汰される薬局・薬剤師になってしまいます。在宅医療は国が推し進める地域包括ケアシステムの中で非常に重要な役割です。そこに薬剤師が介入し、成果を上げることで薬剤師がより活躍できる社会となります。

臨床の知識が増える
特に薬局で働く薬剤師は、医師の診察・診断から処方されるという流れが見られないことが多く、処方された薬から病態を推測するしかありません。しかし在宅医療薬剤師は、記録やカンファレンス参加により、医師の処方意図を理解した上で服薬指導を行うことができます。また処方された薬の効果や副作用を実感することができるでしょう。こうした臨床における薬の影響を学べる環境は、薬剤師としてスキルアップできるチャンスです。

8.デメリット

では逆に、在宅医療薬剤師をやるデメリットとは何なのでしょうか?・業務が忙しくなる
在宅医療に特化した薬局というのは少なく、通常の処方箋応需に加えて、在宅医療業務をやる場合がほとんどです。門前調剤を多く取り扱う薬局では、門前の病院やクリニックが休診の間に在宅医療業務を行う事が多く、残業になる事もあります。また、在宅訪問している間の店舗対応を誰かに任せなければいけません。そのため、人員にもゆとりを持たせる必要があります。

・時間が拘束される
在宅医療薬剤師は24時間365日、緊急時に対応しなければいけない場合があります。これは厚生労働省もかかりつけ薬剤師に求める条件として提示しています。特に終末期を在宅で過ごす患者さんは急変が起きたり、麻薬や鎮静薬が突然必要になります。今後、在宅で看取りを希望する患者さんが増えることも予想されますので、対応する体制作りが必要です。

・在宅医療薬剤師の認知度が低い
在宅医療薬剤師の世間の認知度はまだまだ低いです。患者さんや家族は「薬剤師が家に来て何するの?」と思っている場合が多いです。更にケアマネジャーの中にも「薬の管理は訪問看護師がやっているから薬剤師は不要」と考える人もいます。在宅医療に薬剤師が介入する価値を世間に感じてもらわなければ、先細りしてしまう可能性もあります。伸びしろがある事をプラスにとらえて、在宅医療薬剤師として活躍し、認知度を高くしていって欲しいと思います。

9.まとめ

いかがだったでしょうか。在宅医療薬剤師について、少しでも興味を持っていただけたでしょうか。在宅医療は今後ますます広がっていきます。薬剤師が在宅医療に参加する意義は大きいですが、まだまだ認知度が低かったり、対応する体制作りが追いついていない現状があります。そのような逆境があるのも事実ですが、やりがいは大変大きく、今後伸びしろのある分野です。「興味はあるけど自分にできるかな?」と思われる方も多いかもしれません。しかし、ぜひ調剤室の外に一歩出てみてください。きっと薬局では見られなかった患者さんの顔があります。あなたの薬剤師人生が変わるような経験が待っているはずです

最後までご閲覧いただきありがとうございます。

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